日本で一番、茶づくり名人が多い
川根の里から、ティーメッセージ

今年の日本茶最高峰は?
毎年行われる全国茶品評会。
その煎茶関連部門の上位入賞者数。産地単位で競う「産地賞」。
いずれも日本一の実績を積み重ね、
幾多の茶づくり名人を生んできた川根の里から、
お茶を淹れ、楽しむ皆様へ。
メッセージを随時アップしていきます。
皆様の暮らしに、ココロに、
ちょっとした豊かさの新芽が芽吹くことを願って。


茶づくりも。淹れ方も。柔軟に。
難しい今を生きるヒントのような、
ティーメッセージ。

相藤農園
相藤直紀

相藤直紀は、日本一の茶づくり名人となった。
令和2年の第74回全国茶品評会(以下、全品)。
なかでも最高峰の煎茶が競う「普通煎茶4kgの部」に優勝し、
農林水産大臣賞を受賞したのだ。その真骨頂は「柔軟さ」かもしれない。

自らが育てた天下一品のお茶の淹れ方、
普通なら「こう淹れてほしい」と、こだわりを主張しそうだが、
「ご自分でおいしいと感じる、自分流を見つけてもらえれば・・・」
上質な川根茶は、一般にぬるめの湯による抽出が推奨されるが、
「旨みや甘みを求めるならそれでいいし、香りを楽しむなら熱い湯で淹れるのもいい。
その時の気分で淹れ方を変えるのも、お茶の楽しみ方だと思います」

自由に淹れ方を探り、とっておきの一杯に出会う。
「丁寧な暮らし」が見直されている昨今の気運にも、通じるのではないだろうか。
「そうですね。ストレスが溜まりやすい時代ですし、
私のつくったお茶で、消費者の方それぞれの淹れ方で、
喉を潤し、心の渇きも潤してもらえれば嬉しいです」

目指すお茶は?
「山のお茶らしい香りと、余韻が残る味の深さでしょうか」
川根茶らしい爽やかな香り・・・
「まあそうですが、香りの特徴は一概には言えない」
やはり何事も決めつけない。
茶づくりに対しても、しかり。
「地域の自然、その年ごとの気象条件、そして先輩方。
それぞれから色んな視点を学びつつ、何年やっても悩むし、試行錯誤の連続です。
茶づくりに、終わりはないと思います」

毎日茶園を見回る?
「ほぼ毎日。葉の大きさ、ツヤやハリ。
春の新芽が求める養分を奪うような、余分な脇芽が出ていないか。
とにかく観察して水をあげたり、状態に応じてあれこれ考えながら
色々な対処をしています」

相藤直紀は相藤農園の4代目。
そして今回の直紀の受賞によって、昭和・平成・令和と
4代それぞれが優勝・大臣賞を獲得するという、全国でも例のない快挙を遂げた。
そう紹介すると順風満帆に聞こえるが、思わぬ波乱に遭遇する。
直紀は若くして父を亡くし、突然に4代目を継いだのだ。
「祖父や父と一緒に茶づくりをしてきましたから、それなりに自信がありました。
でも、その年の全品は等外。屈辱でしたが、それもそのはず。
先輩方の茶は形状が良く、ツヤがあり、ずっしりと重く、味も香りもまるで違う。
自分が主体になって初めて、
自分には分からないことが多かったと、気づかされました」

仕切り直しの日々。
「先輩方に教えを乞い、栽培も製造(※)のことも改めて学ばせてもらいました」
とは言え、茶園環境も茶樹の状態も千差万別。同じにやっても・・・
「もちろん自分なりにアレンジしていきます。
そもそも先輩方の視点も一様ではありません。
でも、その経験値は私なんかより格段に高い。
ベースには、先輩方の色んな教えがあって、
そこから自分なりに、こうやってみよう、ああやってみよう、と。
先輩方のお茶を見て、この域に達したいと、いつも自分を奮い立たせていました」

こうした歩みが、柔軟さや謙虚さを高めたのかもしれない。
全品の存在も大きかったと言う。
「全品に参加するからこそ、周囲の人たちも一層親身になって
応援してくれたのだと思いますし、
出品茶づくりを通じて自分の技術を高め、
消費者の方々にお届けするお茶にも反映できたと思います」

チャンピオンとなった今も続く試行錯誤。
「父なら、こんな時にどうしただろうと、今でも想像することがあります。
特に近年は気象が変わってきていますから。
例えば今年(2021年)の夏は、長雨でした。
こんな長雨、初めての経験です。
それが、どんな影響をもたらすか。
しっかり観察し、それこそ柔軟に考え、先輩にも相談し、
対処していきたいと思います。
そして、この経験が貴重な経験値となって
来年以降の茶づくりに活かされると思います。」

その時々の自然にも柔軟に対処する。
「今」を生きる私たちの暮らし方にも重なる。
経験値と一緒に、自信もそれなりに積み上がっている?
「いやいや、昨年大臣賞をいただいたことで、今年はむしろ、
それまで感じなかったプレッシャーを感じるようになりました」(笑)

プレッシャーを克服して、再びの大臣賞を狙い
おいしいお茶をつくっていく・・・
「そうですね。うちが茶づくりを代々継いだように、
飲む方も、親から子へ、孫へと飲み継いでもらえ、
『この人のお茶を飲みたい』と思ってもらえたら・・・
 そして、この大変な時節柄の心を癒すことができれば、嬉しいです」

※摘んだ新芽を、「蒸し」「揉み」「乾燥」し、旨みや香りを凝縮。最終製品に近い状態にする「製茶工程」のこと。


茶づくりも、
暮らしの豊かさも、
「思い」あってこそ。

相藤園
相藤令治

いつも紳士的なこの人は、こんな紹介フレーズを嫌うかもしれないが、
令和3年、「相藤令治の破竹の快進撃が続く」。
川根本町と、<JAおおいがわ>の品評会とも優勝し
世界のお茶が競い合う「第13回国際名茶品評会」でも
最高賞となる「世界名茶大賞」を獲得した。
もっとも、驚きはない。
毎年の全国茶品評会でも、上位入賞常連の実力者なのだから。

前回登場した相藤直紀の親戚にして良き先輩は、
茶づくりのキモは「思い」の強さだと、よく口にする。
そこを掘り下げたくて聞いてみた。
「朝採り野菜ってあるでしょう。
養分は夜の間に収穫物に流れ、午後は落ちていくから
朝採るのがベスト。私も茶摘みは朝やります。
農業で一番大切なのは、そうした『適期』。
いつ肥料をやるか。いつ茶樹を整えるか。いつ摘むか。
適期を見極め、適期に行動を起こす。
それを支えるのが茶づくりに対する『思い』です。
一日くらいいいかと、いい加減にやって適期を逃すと、
見た目に大きな影響はないかもしれないが、どこかにひずみが出るものです」

その「思い」をイメージしながら相藤園のお茶を飲むと、よりおいしくなりそう。
「飲む方は、飲む方の『思い』で、お茶を優しく淹れてもらえれば」
優しく?
「ささっと淹れるのではなく、湯を冷ましたり、
ゆっとりとした気持ちで、丁寧に淹れる。
そうすれば、お茶はもっとおいしく飲める。そんな意味です」

淹れる人も優しくなりそうな感じ。
「なになに道(どう)て、あるでしょう。
華道とか、お茶なら茶道や煎茶道。
あれは美しく活けたり、おいしく淹れたりするだけじゃなくて、
それを通じて、その人の生き方が磨かれていく。
同じように、お茶を優しく淹れることで
その人の魅力が磨かれていく・・・・・・そんな気がします」

お茶の魅力や意義も、そのあたりにもありそうですね。
昔と違って、色んな飲み物があふれているなかでの、
お茶の魅力や意義・・・・・・
「お茶は『心の欲求』を満たす飲み物だと思います。
一般的な飲み物は、喉が渇いたとか、口をさっぱりさせたいとか
体の欲求を満たしますが、
お茶は、それに加えて『ゆったりしたいなあ』とか、
心を落ち着かせたい、という心の欲求を満たしてくれる。
それが魅力だし、魅力を大切にしているのが
川根茶だと思っています」

川根茶の、山のお茶ならではの香り高さや
旨みの存在感が「心の欲求」を満たす・・・・・・
「そう。山あいで栽培面積も限られる川根茶は、大量生産できませんから
その意味からも、川根茶らしい魅力を私たちが守り継いでいかないと」

それも「思い」ですね。
「ただし消費者の方は、色んなお茶を飲んでみるのがいいと思います。
そのなかで好みを探すのも、おもしろさ。
他産地のお茶でもいいし、川根茶の中でも味わいは様々だから
違いを感じ、選ぶのも楽しみです。
で、最後に私のお茶に戻って来てくれれば!」(笑)
「実際、さっきもご無沙汰していたお客さんから電話があって、
『今飲んでいるお茶に飽きた、令治さんのお茶が飲みたくなった、
令治さんのお茶は、飽きが来ない』と言われて。
そりゃ嬉しいですよ。
お客さんの心に、私のお茶の味や香りが残っていたんですから」

この人自身も、色んなお茶を柔軟に追求している。
「若い人の中には、お茶の渋みを『苦い』と表現して苦手にする人がいます。」
自然な旨みや甘みが川根茶の特徴。でもお茶らしい渋みもあって、
そのバランスが魅力ですよね?
「年配の人はそう感じてくれますが、若い人は必ずしもそう感じない。
ですから、お茶とはこうだと決めつけず、
製茶やブレンドによって特徴が異なるお茶を提供しています。
お茶の味に慣れれば、若い人もやがて渋みのバランスを
楽しめるようになるかもしれません」

それもまた、消費者に対する「思い」ですよね。
色んな特徴を楽しむ・・・・・・暮らしの豊かさを見直す昨今の機運にも寄り添えそう。
「例えば、朝はこのお茶。昼はこんなお茶。夕食時は、このお茶。
夜のゆったりした時間は、このお茶。
そうした飲み方も豊かさを生むかもしれないですね。
湯飲み茶わんや急須、湯冷まし、茶缶など茶器も
好みでこだわると、お茶はもっとおいしくなり、
さらに暮らしを豊かにするのはないかと」

日本人は、お酒が苦手な人が多いそうです。
一説によると日本人の4割は、あまり強くないか、飲めないとか。
その意味からも、お茶がもっとクローズアップされていいですよね。
「お酒はお酒でおいしいけれど、気持ちを高ぶらせる面がある。
お茶は気持ちを落ち着かせます。
おいしい、という満足と、気持ち的な満足がある。
そこを感じていただけたら・・・・・・」

発言すべてに、さすがの「思い」があります(笑)
全国茶品評会(以下、全品)への挑戦が、それを育みました?
「自分がどんなにいいお茶だと思っても、第三者に認められなければ仕方ない。
その思いを伝える場が全品です。
もちろんアピールできる場、という「思い」もあります(笑)。
そもそも川根の中でも(私の暮らす)藤川地区は、
全品で上位入賞する先輩たちがたくさんいました。
その茶づくりへの思いを引き継がなければ、という責任感もあります。
いずれにしろ全品に参加していなかったら、今の技術やお茶はなかった。
もちろん「思い」もここまで強くなかったでしょう。
こうして私の話を聞きに来てくれるのも、全品の実績があればこそ。
私の農業人生、ここに帰結するのかな」

そう話すと、「思い」を解きほぐすように、
湯飲みのお茶をゆっくり口にした。


日本一の茶づくり
名人から、あなたへ。